それぞれの選択 人もよう
メディア詳細情報
メディア掲載年月 | 2002年1月 |
掲載媒体 | 琉球新報社 |
「それぞれの選択(上)~決断を支えたい~」
2002/01/01 琉球新報
「あなたの陰のリーダーシップに支えられ、ここまで来られた」。藤本ゆかりさん (37)=那覇市出身、千葉県浦安市在住=が、幼児教育会社を辞める時、社長はこう語り、労をねぎらった。五十歳を超える社長が、当時まだ二十代半ばの藤 本さんのリーダーシップをたたえた。この会社で藤本さんは、子供たちに音楽を教えながら、社長の秘書を兼務していた。
幼少からピアノのレッスンを続けてきた藤本さんは、ピアニストになるのが夢だった。周りも、自分もそう思い込んでいた。高校を卒業すると上京、国立音楽院でピアノを四年間学び、さらに二年間米留学。帰国後同学院でピアノ講師をしていたこともある。
「何か違うな」。自分が選んだ「ピアノ」という道が、自分の中で違う選択をしているように思えたのは、この会社で働いているころだった。「ピアノ以外の選択はないと思っていた」のだが。
「社長はお客さま、社員の前で何かを語るとき、そして決断するときは自信を持っていた。でも、その寸前までは常に迷っていた」。本当の社長の姿は、藤本さ んだけが知っていた。自信を持って語るまでには準備がいる。それを先回りして、資料などを整えて支えた。「ありがとう」。社長から自然とこぼれる言葉に、 やがてピアノを教えるよりも人を支える仕事に充実感を感じ始めた。
「ピアニストの夢はまだあった。だが、企業のトップに立つ人を支える方が、ずっと大きな存在に思えた。大きな決断をする人たちの気持ちに添ってあげることに魅力を感じた」
今は日本IBMで営業部長秘書を務めている。仕事にやりがいを感じ、IBMのファンでもあるが、多くの経営者たちのサポートをしたいという気持ちが芽生えはじめた。
二年前のそんな時だった。米国で始まった新しい仕事が、テレビで紹介された。「私が探していたのはこれだ」。藤本さんの心をとらえた。「コーチング」だ。
コーチングはスポーツの世界から来ている。コーチは選手の潜在的な能力をサポートして引き出す。同じように組織で上に立つ者、女優や作家など個人で仕事をする人を主な相手にやる気(モチベーション)を高め、行動につなげる仕事だ。
すぐにコーチ養成所の説明会に参加した。コーチングは、ゼネラリストという秘書のキャリアを一転、スペシャリストに変える可能性があった。まだ耳新しい仕事に、藤本さんはかけた。
(社会部・米須清光)
価値観が多様化する社会の中で、仕事を、生き方を、夢を求めて、それぞれの選択がある。その人間模様を描いた。
「それぞれの選択(下)~ニーズの高まること確信~」
2002/01/03 琉球新報
コーチングは、秘書歴の長い藤本さんには魅力ある仕事だ。
秘書なら一人しかサポートできない。「コーチングなら多くの人をサポートできる」。
コーチ養成所で1年半のプログラムを受けながら、友人、知人、元上司らに「三ヶ月無料でコーチングを受けてください」と頼み込み、十人を相手にコーチングを始めた。実践の中で相手に指摘を受けながらも技を磨いた。
コーチングは、主にコーチからの質問に相手が答える。質問は巧みだ。コーチとのやりとりは、実は自分自身の内面との対話となり、その人自身が持つ答えに気 付かせたり、やる気を高めて行動につなげる。いわば、陰のサポーター的な存在。米国企業では盛んに導入され組織効率化、実績向上に生かされている。不況が 続く日本でも、リストラで会社に不信感を抱く社員、逆に社員とのコミュニケーションづくりに悩む管理職の間で関心が高まりつつある。
十人の中には元AV女優がいた。AV女優をやめて、女優を目指しているという雑誌の記事を読み、彼女を探した。AV女優から女優への転身は失敗が多いとい われる。自分のコーチングが生きるか試したかった。彼女は「元AV女優」という世間の見方に身動きが取れずにいた。仕事の依頼がなく、不安を募らせていた 彼女に「忙しい時期にはできなかったことはどんなことでしたか」「自由になる時間に恵まれたこの時期をどう生かしますか」と問い掛けた。やがて、彼女は 「仕事のない時期こそチャンス」と思うようになった。視点を変えたのだ。彼女はエステに行ったり、映画を見てイメージトレーニングを行い、いま着実に前へ 歩み続けている。
三ヶ月を過ぎ、月三万円の有料になっても、十人のうち六人は残った。副業ながら、今クライアントは個人十六人、企業二社。電話で、面談で週一回三十分-一時間話す。報酬は一人月十万円。
この春、藤本さんは日本IBMを辞めて、プロのコーチになる。周りから「人の話を聞くだけでカネが取れるか」「今の職場で生かせば」と反対された。だが、 四月からの予約は既にいっぱいになり、初年度は今の年収を大幅に上回る一千万円を見込む。
「ニーズが多様化、即断即決が必要とされる社会で、コーチングは必要とされるものになるという確信がある」。自らの選択に迷いはない。
(社会部・米須清光)






